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冲方丁『天地明察』、 田尻祐一郎『江戸の思想史―人物・方法・連環』

2010年の本屋大賞(第7回)、吉川英治文学新人賞(第31回)の冲方丁(うぶかたとう)氏の『天地明察』を読む。

幕府に囲碁をもって仕えるという職(碁方)にありながら、算術に興味を持ち、後に800年ぶりに暦を改訂し貞享暦を導入した渋川春海というちょっとマイナーな人物を取り上げながら、面白いと評判の作品。

ただ、私にはちょっとあわなかったなぁ、つまらなくはないのですが・・・。
渋川春海という稀代の天才でありながら、ちょっとマイナーな人物を取り上げ、同じく天才である和算の関孝和や囲碁の本因坊道策との交流や同時代の大名である保科正之や徳川光圀(水戸黄門ね)、酒井忠清(下馬将軍)などとの交流を描いた着眼点は面白いなぁ、とは思いましたが、いろいろ盛り込みすぎてちょっと薄っぺらな感じがしました。えんとの馴れ初め話なんかは、とくにいらないかもしれません。。。

なお、私は暦には詳しくありませんが、この小説の暦に関する記述は、少々、誤りが散見される模様です。

私が気になったのは、江戸時代前期の儒学に関する著者の考えです。
小説ではあまり良く書かれていない山鹿素行(一方、山崎闇斎はよく書かれています。)。
素行は、保科正之がすすめる民生を重視した政治の意義も渋川春海が進める改暦の意義も理解できないやや偏狭な人物に描かれています(まぁ、実際、闇斎を師事する保科正之により江戸を追放される処分をくだされています)。

素行の論は作者が言うような武士だけの論ではなく、農工商人の存在価値は明らかであるのに、その上に立つ武士のその存在価値は自明ではない。ではなぜ、武士がその上にたっているのか、ということ論じたもの。決して、民を無視したものではない、と思うのです。

なお、闇斎は、朱子学を2次文献ではなく、朱子が書いた一次文献によって理解しようと務め、我が国の朱子学の水準を高めた人物として知られていますが、それがゆえに、他ならぬ素行からは追放の書となった聖教要録の中で、

ただ、敬のみを言えば、乃ちその心逼塞にして通ぜざるのみ

とその狭量さを批判しています。


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